夢の守り人 [ファンタジー]
『守り人』シリーズ3作目。
故郷カンバル王国での懸案事項に一応の決着をみたバルサは、
幼なじみのタンダに会いに新ヨゴ皇国へと戻る途中で、
人並みはずれた歌を唄う男を助けるハメになる。
一方、眠りに落ちたまま目が覚めない人が続出するという
奇妙な事件がタンダの周囲を含めた新ヨゴ皇国で起きていた。
この作品は、『精霊の〜』で活躍した
タンダやトロガイに焦点が当てられている。
特に、謎の多いトロガイの過去が語られている。
『精霊の〜』では、超然としていた印象の強いトロガイにも
人並みな時代があったというちょっと新鮮な驚き。
そして、あのチャグムも一回り大きくなって帰ってくる。
身体だけでなく、精神もいっそう強くなったチャグムは、
かなり頼もしい少年になっていた。
『精霊の〜』で、気に入った登場人物でもあるタンダが
いろんな意味で痛々しい程の活躍を見せる。
そして、バルサやトロガイとの絆も深く表現される。
タンダが弱気になっているチャグムに語りかける部分が
とても印象に残っている。
ファンタジーの体裁を取っているが、
語っている内容は、普遍的なもので
現代社会にも通じるものがあると感じる作品。
2008/02/21 読始
2008/02/24 読了
闇の守り人 [ファンタジー]
「精霊の守り人」に続く2作目は、
主人公バルサの過去に迫る物語。
そして、彼女の育ての親、ジグロの物語でもある。
チャグムを守りきったバルサが、
それをきっかけに決心をして向かった先は
故郷であるカンバル王国。
幼い少女だった自分に降りかかった災難から
逃れるしかなかった故郷へ戻った理由は何なのか?
バルサの不幸の元凶である王の死と共に、
解決したはずだった陰謀のくすぶりが、
彼女の帰国と共に復活の兆しをみせ、
それはある重要な儀式へとつながって行く・・・。
前作で時折話題に登った、育ての親ジグロ。
自分にもバルサにもひたすら厳しかったと思われる彼の
バルサに対する想いがひしひしと伝わってくる。
クライマックスで描かれる「ルイシャ贈りの儀式」での
闇の守り人の真の姿については、
薄々勘づいていたものの驚愕を隠せなかった。
そして「善」の仮面を冠った「悪」の描き方が上手い。
やむを得ない状況での「悪」ではなく、
芯から、自己中心的な「悪」。
彼の存在があってこそジグロとバルサの良さが引き立つ。
あとがきで、「精霊の〜」より「闇の〜」の方が
大人に人気があるというのも、なるほどと頷ける。
子供だけに読ませておくにはもったいない物語だ。
2008/02/15 読始
2008/02/19 読了
精霊の守り人 [ファンタジー]
とても評判の高い「守り人」シリーズの1作目。
ファンタジーというと、
イギリス等の海外作品をどうしても思い浮かべがちだけど、
これは日本人の書いた日本人なら理解できて、
すんなりと入り込める物語だと感じる。
登場人物の名前こそカタカナで、
いわゆる「日本風」ではないにしても、
一つの「神」をあがめる宗教を信仰する国とは違い、
八百万の神が存在すると信じられていた日本の土壌に近い感覚。
主人公は、バルサという30代の女性で、生業は用心棒。
ふとした事から、命を救ったチャグムという第二皇子の
用心棒を頼まれるはめになる。
その皇子の体内には、
どういうきっかけなのか精霊の卵が宿っているのだが、
そんな状況を疎んだ父帝から命を狙われ、
更に、卵を狙う魔物からも命を狙われている事がわかる。
呪術師や、幼なじみの薬草師の協力を得て、
チャグムを守ろうとするバルサの戦いが描かれる。
元々は、児童書として出版された本だそうだが、
大人が読んでも充分に楽しめるということで、
漢字の量を増量して新潮社が文庫化したとのこと。
文章がさっぱりしていて読みやすく、
主人公が女性ではあるものの、女々しさはあまりなく
魅力的に描かれている。
他登場人物の設定も、いい加減な所がなく
読んでいてイメージが湧きやすい表現のお陰か、
読書中は、脳内で自由に動き回り始める程だった。
勧善懲悪といった表の部分だけではなく
裏の暗い部分もきちんと書き込んでいるところが、
大人も満足できる仕上がりになっているのかもしれない。
2008/02/09 読始
2008/02/13 読了